発表・掲載日:2024/11/6
JIMTOF2024現場リポート
町工場にもロボットの「新設備時代」ーー勝ち残り組に匠の技術力と自動化のコスト競争力
2年に一度のものづくりの祭「JIMTOF2024(第32回日本国際工作機械見本市)」が、東京ビッグサイトで11月5日から10日まで開催されている。会場には全国の町工場関係者が来場者・出展者両方の立場で集結。廃業した仲間の仕事を引き継いで大型化しつつある町工場は、自動化やDX推進をキーワードに新たな設備の活用を検討している。JIMTOF会場から『町工場・新設備時代』の動きをリポートする。
JIMTOF2024には1262社が出展
巨大工作機械から切削工具、歯車まで
JIMTOFは東京ビッグサイトをほぼすべて使う広大なスペースに1,262社が5,743小間を展示。主催する日本工作機械工業会と東京ビッグサイトは、6日間で13万人以上の来場を見込む。中心となる東展示棟に並ぶ内外・大小の工作機械だけでなく、駅から最初に入る会議棟から右手側の西展示棟に無数に展示された切削工具や砥石、歯車も面白く、さらにその奥の南展示棟には3Dプリンタなど見逃せない企画展示コーナーがある。
大手メーカー向け最先端設備が並ぶイメージのJIMTOFだが、実際には来場者にも出展者にも町工場関係者は多く、JIMTOFに合わせて出張を組んだ全国の社長たちがSNS上で再会を打ち合わせる会話が飛び交う。
そんなJIMTOFの会場を回ってみよう。
◼️西展示棟◼️小さな町工場の大きなドリルー辰野目立加工所
西展示棟と南展示棟は朝9時に開き、まず圧倒的な量の切削工具が来場者を出迎える。1時間後の10時に主役の工作機械が並ぶ東展示棟が開場し、来場者が全会場を順に回る流れが作られる。
まず西展示棟。日本には大手から中小まで多数の工具メーカーが存在し、工夫を凝らしたさまざまな製品を提供する。多彩な道具が揃うのは日本のものづくりの強みだ。
その一社、辰野目立加工所(長野県辰野町)は社員40人、社名でわかるように木工用の回転鋸刃の目立てで1966年に創業し工作機械のエンドミル研磨に拡大した。さらに「お客さんから『おたくで再研磨したエンドミルは新品よりよく切れる。製品を作ったら売れるぞ』と言われて工具自体も作るようになった」(栗林稔社長)のだという。個性的で優れた工具を手掛け、2年前のJIMTOFではカミソリのように研ぎ澄ましてバリが出ない製品を「髭の剃れるエンドミル」と紹介するポスターを張り出し、SNS上で評判になった。
今回のJIMTOFでは「世界最大の超硬スパイラル総型ドリル」をアピールしている。大規模な施設で回転軸の軸受を切削する直径112mmのドリルで、重量オーバーにならないよう工具の母材は薄くして、刃は長い超硬チップをロウ付けしている。
このドリルは、多くの工具メーカーが「できない」と断り、最後に同社に回ってきた仕事。母材とチップに少しでも隙間があれば、熱伝導の差で工具は割れる。そうなれば巨大なだけに大事故だ。同社は自信を持つ研磨技術で密着するよう磨き上げ、大型工具ながら100分の1mmの精度を達成した。
世界最大とは本当なのかと聞くと「大手メーカー数社ともやり取りして『これは最大だよ』と言ってもらった」(同)と笑う。日本の町工場は強く、工具メーカーの連携も素晴らしい。
直径112mmの大型ドリルで100分の1mm台の精度(辰野目立加工所)
◼️南展示棟◼️地に足のついた企画展示ーキャステム、大野精機
西展示棟からさらに奥にある南展示棟まで来場者を誘導するため、各種の企画展示コーナーが用意され「3Dプリンタ」の展示が特に目を引く。ブームの割に現場での実用化が遅れた3Dプリンタだが、今回のJIMTOFでは実際の応用事例の展示が目につく。
キャステム(広島県福山市)はロストワックス鋳造に3Dプリンタを応用した「金型レス鋳造」を展示している。ロストワックス鋳造は金型を製作してまずロウ模型を作り、これに砂をコーティングして加熱しロウが溶けた空洞に金属を流し込んで製品を作る。このロウ模型を作る工程を3Dプリンタに置き換えれば、1個から鋳造部品が作れるというわけだ。
鋳造部品はクルマのエンジンや足回り、ロボットの部品などで使われる。その試作開発の段階で、他の金属材料を切削加工したり金属3Dプリンタで成形したのでは、部品の形状は同じでも溶けた金属が固まってできる鋳造品とは機械的な性質が異なる。キャステムの1個から試作できる「金型レス鋳造」は量産鋳造にも移行しやすく、試作部品で評価が良ければ発売後の量産鋳造を一貫して受注できる可能性も高い。実に地に足のついた3Dプリンタの使い方だ。
3Dプリンタを応用し鋳造部品を1個から試作(キャステム)
南展示棟には他にも地に足のついた小さな町工場の展示品がある。大野精機(東京都大田区)は旋盤加工の小さな町工場だが、自社ブランド製品「ゴリラホルダー」と「カメチャック」を展示している。自社の仕事で治具として考案したものを外販しているのだ。
汎用旋盤では、バイトの下にシムを何枚か挟み高さをワークに合わせて調整する。この作業が面倒で時間がかかる。そこで、リピートオーダーがあるワーク用にあらかじめ高さを決めた治具を用意するのが「ゴリラホルダー」だ。
また、旋盤にワークを固定するチャックには、ワークの形に合わせてくぼみを加工する「生爪」を使う。工場内にはたくさんの生爪チャックがあふれて保管場所に困り、たくさんの生爪を買えばお金もかかる。そこで同社の「カメチャック」は、生爪を亀甲型にして一つで6カ所使えるようにした。まさに現場の地に足のついたアイデア商品群は、今や全社売上高の2割を占めるまでに拡大した。
6カ所使える生爪「カメチャック」はまさに現場のアイデア(大野精機)
◼️東展示棟◼️定番機の復活と最先端のロボットー入野機工
東展示棟の東1〜東8ホールには、同時5軸加工マシニングセンタをはじめとするJIMTOFの主役、工作機械が並ぶ。電気自動車の土台を一発成形する話題の「メガキャスト」向けなど、前回に続き展示する工作機械の大型化が進む。
東1〜3ホールと東4〜6ホールが向かい合う四角い建物の奥に、三角形の東7・8ホールがある。この一番奥にDMG森精機の巨大ブースがあるので、忘れず奥まで行きたいもの。
巨大なマシンングセンタが並ぶなか、入野機工(神奈川県横須賀市)の内面研削盤「IIG-20H」は『再製造』を掲げ定番機の復活をアピールしている。研磨加工の現場で必ず見かける名機「YIG-20」を生んだ旧・山田工機が廃業したのを受けて事業を引き継ぎ、汎用機の良さはそのままに、位置決めなどの自動制御機能を追加したハイブリッド機として『再製造』した。
日本の中小製造業は設備が古い、との批判がある。しかし現在、勝ち残った町工場は各種の補助金を活用して設備の更新に積極的だ。入野機工の試みは、全国の研磨業の町工場が約3000台保有すると言われる旧・山田機工の古いベストセラー機を刷新する点で注目される。
ただし入野機工は、単に新型を再製造するのではなく、環境に配慮したものづくりの概念として注目される「リマニュファクチャリング」を志向している。ユーザーが保有する機械を完全に分解し電気系可動部品を新調して元の性能の新品として再生したり、鋳物の土台は再利用して新型機に仕立てたり、それぞれのユーザーのニーズに対応する。「単なるオーバーホールでもレトロフィットでもなく、本当に良いものを『再製造』します」(入野社長)と話している。
「再製造」を掲げ名機がJIMTOFに帰ってきた(入野機工)
*関連記事 「破綻した名門工作機械メーカー再建に挑む」 もご参照ください◼️全館◼️町工場による町工場のためのロボット
JIMTOFに並ぶ最先端の工作機械は、ロボットの導入による工程の自動化技術を競っている。その多くは大手メーカーの大規模工場向けに見えるが、よく見ると町工場をターゲットにした展示が増えていることに気づく。
松本機械工業(石川県金沢市)は1948年創業で従業員は90人、旋盤用のチャック製造からスタートし事業領域を拡大してきた。この数年はロボットによる自動化のソリューション提供に力を入れ、今回のJIMTOFでは「自動段取り替えオールインワンシステム」を展示している。
ターゲットは中小製造業がすでに持っている「普通のNC旋盤」。後付けで多関節ロボットを置き、ワークをつかむチャックの交換、ワークの交換、さらに工具も自動で交換し、これらの材料を並べる棚まで全部セットで提供する。
想定する使い方は、加工時間の長い複雑なワークを夕方に4種類ほど棚にセットして帰宅すると、自動で段取り替えして翌朝には完成している、というもの。24時間動き続ける大手企業の工場向けシステムではなく、町工場の町工場による町工場のためのロボットシステムだ。
価格はオールインワンで1800万円。旋盤用に続きマシニングセンタや円筒研削盤用も用意した。多品種を少量〜中量生産する中小製造業が、自動化補助金などを活用すれば十分に手が届く。
多品種中量生産の町工場のためのロボット(松本機械工業)
JIMTOF東展示棟では大手工作機械メーカーの展示にも、多品種中量生産の町工場をターゲットにしたものが目立つ。ヤマザキマザックのブースでは、自動搬送にパレットシステムよりコンパクトな「ガントリーローダ」を採用した同時5軸複合加工機が置かれ、「これならうちの工場にも入る」と町工場の社長が眺めている。アマダのブースでは多関節ロボットの溶接マシンが、箱物のR部分に細く美しいビードを作っている。1億円近い機械だが、人手不足のいま、溶接工を3人育てることを考えればリーズナブルなのだ。
日本の中小製造業は2020年で約17万6000社。ピークの1983年・43万8000社から減少したものの、勝ち残った町工場は廃業した仲間の設備と人を引き継いで大型化し競争力を増している。17万社という数は高度成長期が始まる前の1955年レベルに戻っており、過当競争も解消されつつある。
競争力を上げた勝ち残り組は、新たな設備の導入に意欲的だ。かつて町工場のような多品種少量生産ではプログラムの切り替えが多くロボット導入は難しいと言われた。しかし今、自動段取り替えのノウハウは格段に進歩し、現場をよく知る町工場自身が町工場のためのロボットシステムインテグレーションに取り組む。
町工場が先端のロボットを使いこなし、日本のものづくりを活性化する時代の入口ーー。それが今回のJIMTOFかもしれない。
町工場でロボットが美しい溶接をこなす時代に(アマダ)
*JIMTOF出展企業のブース位置は、 公式HPの検索機能 が便利。アイウエオ順で社名を検索し、社名の下の「小間番号」をクリックすると会場マップに一発表示されます。