発表・掲載日:2023/04/02

介護の現場が絶賛! 町工場のウィリーする車いす

関鉄工所・カラーズ

 町工場には開発能力がある。頼まれたものを正確に作る加工技術のプロであるだけでなく、現場ならではの豊かな発想力とアイデアを形にする力を持っている。大手企業からは出てこない、町工場らしいユニークなものづくり。その好例がウィリーする車いすだ。

ウィリーする介助型車いす「カラーズ」は重心を車軸上に設定

ウィリーする介助型車いす「カラーズ」は重心を車軸上に設定

前輪を固定し水勾配に負けず真っ直ぐ進む

 日本の道路は水捌けのために、両端を下げたカマボコ型になっている。我々には何ということもないこのわずかな「水勾配」が、車いすを押す介護者を苦しめてきた。水勾配により道路の端へと曲がっていく車いすを、ハンドルを持つ腕に力を入れ足を踏んばって真っ直ぐ進めているのだ。介護事業者に「ものづくりの力で、何とかならないでしょうか?」と相談された関鉄工所(東京都大田区)の関英一社長は、「前輪を真っ直ぐ固定する」という乱暴な対策を考えた。それでは曲がれないではないか、と誰しも思う。「介護者がハンドルを押し下げて前輪を持ち上げれば、方向転換できる」。関社長はウィリーする車いすの開発に着手した。
 アイデアをカタチにするには、重心の位置がカギを握っていた。後ろへひっくり返らないストッパーを工夫しながら極力シンプルな構造とし、介護者が小柄な女性でも軽い力でウィリーするよう重心を大車輪の車軸の真上あたりに持ってくる。試作した車いすは6台に及んだ。

 2022年9月27日、東京ビッグサイトで国際福祉機器展がスタート。車いす専業メーカーや大企業の福祉機器部門の大きなブースに囲まれて、介護事業者・カラーズ(東京都大田区)の小さなブースにはウィリーする介助型車いす「COLORS」と比較用に普通の車いすが並ぶ。床には板で手作りした小さな坂を置いた。カラーズの田尻久美子社長は東京商工会議所大田支部の会合で関社長に出会い、介護の現場の悩みやニーズを伝えてウィリーする車いすを共同開発してきた。この展示会での反応をみて仕様や価格を最終決定する作戦だ。町工場仲間からは「ケアマネなど福祉機器展の来場者は厳しい意見をガンガン言うけど気落ちしないで」とメッセージが届く。

田尻社長(左)から現場のニーズを聞き、関社長が試作した車いすは6台に及んだ

田尻社長(左)から現場のニーズを聞き、関社長が試作した車いすは6台に及んだ

町工場のアイデアと試作の力で砂利道や踏切も楽々

 しかし、ウィリーする車いすは来場者のほとんどに絶賛された。完成した車いすは軽い力で水勾配に負けず真っ直ぐ進むだけでなく、普通の車いすが立ち往生する道路の段差や砂利道、踏切の溝を楽々クリアした。ブースを訪れた現役のケアマネは、木の坂を軽い力で真っ直ぐ進む車いすを「今回の展示会の中でベストの製品」とほめ、それまで不安げだった田尻社長が表情を緩める。メディアにも注目され、記事を見ての引き合いが舞い込んできた。
 初めての自社オリジナル製品を展開する両社にとって、まだまだ課題は多い。流通経路をどうするのか、卸との価格交渉にどう臨むのか、いかに品質を維持しながら生産コストを下げるのか。それでも、こんな車いすを待っていたんだという介護の現場の声を受け、両社は前へ進む。

有限会社関鉄工所
所在地:東京都大田区大森西4-17-27
代表者:代表取締役 関英一
設立:1956年4月
社員数:20名
有限会社関鉄工所ホームページは、こちらから。

株式会社カラーズ
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