発表・掲載日:2023/04/12

テスラの「メガキャスト」に日本の町工場連合が挑む

米谷製作所と共和工業がEV車台の一発成形を共同開発

 電気自動車(EV)で急成長した米テスラは、EVの車台をアルミダイカストで一発成形する「メガキャスト」という製造技術を提唱し、一部製造を始めている。たくさんの鉄の部品を組み合わせてクルマの土台を作る従来の生産方法に比べ、コストが劇的に下がるとテスラは主張する。本当にそんな巨大部品を作れるのか、日本の完成車メーカーが情報を収集するなか、金型製造に長い経験と豊富なノウハウを持つ町工場の連合体がいち早く「日本のメガキャスト」に名乗りをあげた。

米谷製作所は2億円の超大型MCを導入

米谷製作所は2億円の超大型MCを導入

新潟地域連携で超大型の設備とノウハウを活用

 米谷製作所(新潟県柏崎市)は2022年秋、戸建て住宅ほどもある超大型5軸マシニングセンターを導入した。自動車エンジン用の金型を作る同社は、アルミダイカスト部品の金型メーカーとしては国内最大級の製品を手掛けてきた。基礎の強化工事を含めれば2億円という新設備は、さらに巨大な部品を作るメガキャストに対応するために導入した。2020年末にはスイスの鋳造メーカー・ジョージフィッシャーの中国・金型子会社と業務提携。メガキャストで先行する欧州の情報にアクセスする態勢も整えている。
 米谷強社長は、同じく巨大な設備を持つ新潟の金型仲間に声をかけた。共和工業(新潟県三条市)は自動車のインスツルメンツパネルなど大型の樹脂部品用の金型を得意とする。工場には加工槽が大浴場の湯船ほどもある巨大なワイヤカット放電加工機が並び、粗加工は大量に発生する切粉を処理しやすい横形マシニングセンター、仕上げは家の門より大きな門形の立て形マシニングセンターで行っている。巨大な工作機械がはるか彼方まで並ぶ工場の景色は圧巻だ。
 すなわち両社は、メガキャストに一番近い世界で長く事業を展開してきた。共和工業の超大型樹脂部品を作るノウハウと設備に、樹脂より高温・高圧で成形する米谷製作所のアルミダイカストのノウハウを融合すれば、メガキャストがその延長線上にあるのは間違いない。

共和工業は樹脂用で3m級の金型を手がけている

共和工業は樹脂用で3m級の金型を手がけている

2024年にもバッテリーケースなどの金型を出荷

 2023年4月12日、東京ビッグサイトで日本金型工業会主催の「インターモールド2023」が開幕。米谷製作所と共和工業は共同でテーマブースを展開し、メガキャスト技術を共同開発すると発表した。まず2024年に最初の金型を出荷する。この金型で成形するアルミ部品は最大寸法1,200×1,000×700mm(成形時の型締力で4,000t相当)まで対応し、次世代EVの車台部品やバッテリーケースを想定する。最初の金型は共和工業が外側を加工、米谷製作所が部品の内部形状を決める「入子」を最大2,100×1,700mmのサイズで加工する。今後、さらに仲間を増やし、アルミやマグネシウム合金などの成形材料分野や表面処理分野の企業が参加する予定で、将来的には型締力で8,000t相当の超大型部品成形をゴールとして目指すという。
 メガキャストの実用化には乗り越えるべき課題が多い。部品も金型も超大型であることから起こる温度変化による変形、成形時に空間が発生する「す」、成形後の冷却時の歪みーーといった問題をどうやって抑えるのか。両社は材料射出時の金型内の真空度の向上などの対策を研究するとともに、これまで蓄積してきた設計力や、温度・圧力・時間の加工条件のノウハウを応用していく。また、完成した金型は外寸が3,000×2,450mmで重量200tに達するため、どう分割し、どうやって顧客の工場へ運ぶのかという物流の現実的な問題もある。両社は町工場らしい現場に密着した技術・経験・フットワークと連携の力で課題を解決し、次世代EVの製造技術確立を目指す。

町工場が完成車メーカーの背中を押す

 ただし、両社にはメガキャストの仕事が約束されているわけではない。日本の自動車メーカーは、今のところメガキャストをやるともやらないとも表明していない(2023年4月12日時点 *注)。やらないとなれば、両社のメガキャストの売り上げはゼロになる。
 本家・米テスラは巨大な生産拠点をギガファクトリーと呼び、米国と欧州でモデルYの生産にメガキャストをすでに実用化している。まだ車台全てではなく、サスペンション構造の一部やバッテリーケースなどをアルミダイカストで一発成形し大きなコスト削減効果を得ているとされる。スウェーデンのボルボも2030年にEV専門メーカーになるためにメガキャストに投資していると伝えられるなど、EV向けの巨大アルミ部品への注目が高まる。
 日本の自動車メーカーは早くからメガキャストの情報を収集し、テスラを分解して部品を分析している。メガキャストにはデメリットもあり、軽い事故でも車台全体を交換しなければならない、組み立てコストは削減できてもアルミの材料費が鉄よりはるかに高い、と言った指摘が多い。投資が巨大でリスクも大きいだけに、自動車メーカーはメリットとデメリットを比較して考え込んでいる。
 米谷製作所と共和工業のメガキャストプロジェクトは、そんな日本のEV製造に関する議論の静かな水面に石を投げ込む形となった。町工場が自動車メーカーより先に次世代技術への取り組みを発表するのは、極めて珍しい。両社の狙いは「自動車メーカーが『やる』と言った時すぐに対応する」(米谷製作所・米谷強社長)ことであり、「新潟の金型産業が連携して技術や設備の力を高め、世界に示す」(共和工業・熊谷勇介社長)ことにある。これまで黒子の存在で自動車産業を技術面・製造面で支えてきた町工場が、EV革命という荒波の中で自動車メーカーの半歩前に出た。


*2023年6月13日、トヨタが技術発表リリースの中で「ギガキャスト」の採用を表明しました。
 「トヨタ、クルマの未来を変える新技術を公開」をご覧ください。
 まだどこが受注するかわかりませんが、がんばれ町工場!

株式会社 米谷製作所
所在地:新潟県柏崎市田塚3-3-90
代表者:代表取締役社長 米谷 強
設 立:1934年
社員数:95名
株式会社 米谷製作所ホームページは、こちらから。

共和工業株式会社
所在地:新潟県三条市直江町4-18-18
代表者:代表取締役社長 熊谷 勇介
設 立:2011年6月(創業は1963年)
社員数:320人
共和工業株式会社ホームページは、こちらから。