発表・掲載日:2023/06/8

町工場のSEO対策が本格化

ーーネット受注拡大へ目指せGoogle検索結果トップ

 町工場のSEO対策が本格化している。SEO対策によりネット経由の受注拡大を目指す町工場が増加。加工分野によっては町工場が大手企業やネット専業サービスを抜き、キーワードの検索結果トップに立つケースも出てきた。ただし、町工場の業務内容はニッチで専門性が高いためSEOの専門業者に丸投げするのは難しく、と言って町工場が自分でコンテンツを書くのも大変。先行組の上位サイトは、町工場とSEO業者の地道な努力の成果だ。

昭和製作所のサイトは専門的なコラムを社員が執筆

昭和製作所のサイトは専門的なコラムを社員が執筆

毎月コラム2本アップで検索結果ひと桁に

 昭和製作所(東京都大田区)は2年ほど前にSEO対策を始めた。試験片製作の同社は現在(2023年6月5日)、Googleで「試験片」を検索するとひと桁順位に登場し、ネット経由の新規受注が拡大している。「JIS規格の試験片の種類」「パイプ材の試験片の切り出し」など、かなり専門的な内容のコラムを毎月2本ずつアップしてきた地道な努力の成果だ。SEO業者のアドバイスのもと、当初は製造部門の中堅社員や管理職が自ら執筆、現在は営業部門の若手社員をHP担当に指名し会社とSEO業者が共同で育成に取り組んでいる。
 SEO対策とは「Search Engine Optimization=検索エンジン最適化」の略で、自社のサイトをGoogleの検索結果で上位に表示させるための工夫全般を指す。具体的にはインターネット上を巡回するGoogleのロボットが「これは良いページだ」と判断するアルゴリズムに合わせ、①一般の人々に参考になる内容を②ロボットが理解しやすい論理的な構成に並べ③常に更新していて④外部に評価されリンクを張られているーーなどの条件に合ったページを作っていく。
 ものづくりのプロである町工場が「試験片とは」といった一般向けの内容を的確に表現し、それをSEO業者がロボットに理解しやすい形にまとめるのが理想。Googleにページを評価されるためには、町工場とSEO業者の協力が欠かせないわけだ。

町工場とSEO業者の協力が不可欠

 しかし、これがなかなか難しい。
 SEO対策では、まず検索上位にしたい最終目的の「キーワード」を一つ决め、その周辺の「関連キーワード」を多数リストアップする。簡単そうだが、例えば「切削加工」では括りが大きすぎて競合企業が多数になり検索トップの獲得が難しい。もっと絞り込む必要があるのだが、旋盤中心の丸物なのかマシニングセンタ中心の角物なのか、材料はアルミが得意なのか鉄なのかーーSEO業者にはニュアンスがわからず、下手をすると町工場自身も守備範囲が広くどれを中心にするのか决めかねているケースがある。
 やっとキーワード群が決まると、SEO業者は見出しを並べた「構成書」を作り、これに合わせて文章を作成する。構成書の内容が的確か、町工場と業者は十分に打ち合わせを重ねる必要がある。その上で専門知識を持つ町工場のスタッフが文章を書くのが理想だが、時間もなければ作文の習慣もないのが普通。それではとSEO業者に文章作成まで委託するとレベルの差が激しく、十分にものづくりを勉強する業者もいれば、キーワードをGoogle検索して集めた文章を切り貼りするだけの業者もいる。検索結果が上がっても、人間が読むと「?」な文章を見かけるサイトは後者のパターンだ。キーワード、見出し、文章、いずれの制作でも、ものづくりを知る町工場とSEOの専門知識を持つ業者が、我慢強く相互にアドバイスしながら努力しなければ良いページは作れない。

平川製作所のサイトは、最初の段階でSEOを意識して制作

平川製作所のサイトは、最初の段階でSEOを意識して制作

移り変わるSEO対策、最初だけ勝負型も登場

 現在のSEO対策では、サイトの会社説明のページのほかに「コラム」や「新着情報」といったコーナーを作り、キーワードを含んだコラム原稿を毎月数本ずつアップして継続的に検索順位を上げる手法が主流になっている。良いページを作るために町工場側がキーワード選定や文章作成でも汗をかく体制では、毎月数本となると負担が大きい。
 そこで「SEO対策は最初にサイトを立ち上げるときだけ考えれば良い」との意見も出てきた。「パイプ曲げ加工」のキーワードでGoogle検索結果ひと桁につけている平川製作所(東京都大田区)のサイトは、この考え方で作られている。
 一般的な企業サイトのメニューは、「事業の特徴」「製品紹介」「設備紹介」「会社概要」といったところが王道だ。最初が勝負のSEO対策では、それぞれのメニューの下に「一般的な解説」となる豊富な具体事例を紹介する。また、メニュー自体に「装置開発」「受託加工」「ソリューション」といった検索上位を狙うキーワードを使っている町工場もある。競合企業が少ない加工分野では、最初に勝負のSEO対策だけで十分に検索結果上位を獲得できるようだ。
 主流派の数を打つSEO業者は「最初だけ勝負のページは、ライバル企業が本気のSEO対策をしたらすぐに順位が落ちる。検索結果1位と2位では引き合いの数に大きな違いが出る」と批判する。最初に勝負を主張するSEO業者は「順位が落ちたら大変と言われてロボット相手の更新にお金をかけ続けるより、人間の読者に向けて良いページを作ることに集中するべき」と反論する。

 いずれにしてもSEO対策は、Googleが評価のアルゴリズムを変更すると、それまでの努力が水の泡になるリスクがある。過去にも、外部からのリンクが多いほど良いサイトの証明とされた時代にヤラセのリンクを自分で張るSEO対策が増え、問題視したGoogleがアルゴリズムを変更すると不自然なリンクはマイナス評価の対象になった。Googleは純粋に「良いサイトを高く評価する」ための技術革新を続けており、いま主流の多数のコラムvs最初勝負のSEO対策も、Googleの胸先三寸で運命が変わる。さらに、検索結果が上位になったとしても、自動的に売上が増えるわけではない、という次の仕掛けの議論も始まっている。町工場とネットの関係は、どんどん複雑になっていく。
 ひとつ確かなのは、かつての町工場には親会社についていく下請けとして情報発信の必要などなかったのに対し、いまの町工場は積極的に自ら情報発信し、Googleの検索結果を気にするところまできているということだ。そして、トップを走る先行組は、自社の事業内容や戦略を深く検討し、その強みを最も効果的にアピールするため、組織的に行動できている町工場なのだ。

株式会社 昭和製作所ホームページは、こちらから。

株式会社平川製作所ホームページは、こちらから。