発表・掲載日:2023/09/30

高コストな都心の工場で高精度な部品を量産!?

日本型ものづくりの象徴、棒材ワンチャック複合加工ーー富士精器、今製作所

 東京都目黒区碑文谷。外車が並ぶ高級住宅街の真ん中で、金属部品を量産している町工場がある。同じく東京都大田区大森西の小さな町工場も、アクロバットのような加工方法で1ロット数百個の高精度部品を作る。両社に共通するのは、NC複合加工機を活用し棒材から多数の部品を連続加工する技術だ。医療機器や半導体製造装置向けに、試作品と同水準の超高精度な部品を量産するという、都心ならではの高付加価値なものづくりを実践している。

富士精器は碑文谷の高級住宅街に立地

富士精器は碑文谷の高級住宅街に立地

大きく複雑な部品を棒材から連続自動加工

 棒材からの大量生産といえば、スイス式自動旋盤による小径部品の加工が有名。細く長い棒材を機械の外から差し込み、チャックの真ん中から顔を出した棒材の端を加工。加工が終わると切り落とし、棒材を少し押し出して次の加工に入る。その繰り返しで、金太郎飴のように同じ部品を連続加工していく。
 1936年創業の富士精器(東京都目黒区)も、当初は自動盤で小径部品を大量生産していた。しかし、単純な大量生産の仕事は海外へ流れていった。3代目の藤野雅之社長は「都内で仕事を続けるために、もっと大きくて複雑な形状の部品を複合加工機で連続加工する研究を1980年代から進めた。棒材を供給するバーフィーダーを複合機につけてくれと頼んだら、工作機械メーカーが驚いていた」と笑う。
 1951年創業の今製作所(東京都大田区)も、4人の社員で高精度な部品を効率よく生産する技術として、棒材のワンチャック複合加工に到達した。両社はNC旋盤にフライス機能を持たせた5軸複合機や5軸マシニングセンターを使う。機械の外から最大で直径100mmの太い棒材を中空の主軸に挿入し、チャックから出た部分を加工する。旋盤加工で丸くしてもよし、5面すべてフライス加工で四角い部品にしてもよし。ワンチャックで複雑形状を一気に加工すると、反対側に備えたもう一つのチャックへ受け渡して切り落とす。機械のなかで右手と左手で持ち替えるようにして、全ての面を複雑形状に加工することが可能だ。

機械のなかで右手・左手が持ち替えるように加工(今製作所)

機械のなかで右手・左手が持ち替えるように加工(今製作所)→動画はこちら

手作業のばらつきなく1000分台の幾何公差

 この加工方法のメリットは、通常の工作機械のように「ひっくり返して反対側を加工する」という段取り替えがないため、人間の作業によるばらつきが発生しないこと。天井面と床面の2つの穴の位置を1000分の3mm以内に揃えるといった「幾何公差」の厳しい部品加工に適している。精度を確保しやすい加工の順番、バリの出にくい工具の使い方、チャック持ち替えのための治具など、両社さまざまなノウハウを蓄積し駆使している。
 もう一つのメリットがコスト削減。両社は1ロット数十個から数百個の加工を得意とする。完成した部品の大きさと材料の棒材の長さによるが、長い棒材を一度セットすれば、10個程度の部品を連続加工でき、一人のオペレーターが複数の機械を管理したり、終業時間前にセットして「機械に残業させる」ことが可能だ。また、普通なら旋盤、マシニング、溶接など複数工程で作っていた部品を、ワンチャックで加工するVA/VE提案も得意。

丸い棒材に加工して切り落とす。高精度で効率的な加工。(富士精器)

丸い棒材に加工して切り落とす。高精度で効率的な加工。(富士精器)

「安い」のではなく、高付加価値品の量産を支える

 今製作所は自動車、計測器、防衛関連の顧客からリピート品の仕事を頼まれている。今嘉宏社長は「4人で量産をしているので、1個の試作品の相見積もり依頼がたくさんきても対応できない」といい、社員18人の富士精器でも藤野社長は「都心の大手メーカーの急な要請に、直接打ち合わせしてすぐに高精度な量産を開始できるのが強み」だという。両社の仕事は「安い」のではない。日本のものづくりが目指すべき1つの方向は、医療機器や半導体など付加価値の高い産業機器の中量生産だ。両社は「試作品並みの精度の部品を適正な価格で量産する」ことで顧客の付加価値製品を支えている。

地価の高い街で考え抜いた加工(今製作所)

地価の高い街で考え抜いた加工(今製作所)

 富士精器は高級住宅街の真ん中、今製作所は大学病院の向かいに立地している。自動化が得意で今製作所は多関節アーム型の段取り替え協働ロボットまで導入しているが、両社とも24時間運転などせず、夜9時までに仕事を終える。富士精器は近隣の小学校の見学を積極的に受け入れ、高い固定資産税を請求する地元行政に恐縮されている。地価の高い街の小さな工場で、地域と共生しながら考え抜いた加工技術により付加価値の高いビジネスを展開する。それは、日本のものづくり全体に必要な姿勢かもしれない。

富士精器株式会社
所在地:東京都目黒区碑文谷1-12-15
代表者:代表取締役社長 藤野雅之
設 立:1936年
社員数:18名
富士精器株式会社ホームページは、こちらから。

有限会社今製作所
所在地:東京都大田区大森西7-5-10
代表者:代表取締役 今嘉宏
設 立:1951年
社員数:4名
有限会社今製作所ホームページは、こちらから。