発表・掲載日:2023/10/24

大手企業に見込まれた「デレゲーション町工場」とは

仕事の流れをまとめて任せるーーハタダ.

デレゲーション(Delegation)は、代表団や使節団を表す英語だが、人事・労務の用語では「優れた部下に重要な仕事の流れを任せる」という意味で使われる。いま、ものづくりの現場では、企業の枠を超えて発注側大手企業が中小製造業に仕事の流れをまとめて委託するケースが出てきている。相互の強い信頼関係をベースにした「デレゲーション町工場」の登場だ。

試作から始まり全品検査して納入する

試作から始まり全品検査して納入する

原材料成分の配合から海外含む生産手配、最終検査まで

 ハタダ.(東京都大田区)は、1955年設立の精密ゴム部品メーカーで社員数は45人。ゴムは材料配合のさじ加減で特性が変わる。ハタダ.は長い経験から豊富なノウハウを蓄積し、顧客の希望する性能を持ったゴム部品を試作する。「ゴムのことは分からないというお客様が多く、設計の初期段階から提案させていただいている」(畑田芳則社長)という。耐熱性や耐薬品性に優れた特殊なゴムの使用や、金属部品と組み合わせたインサート部品など、プロとしてベストなゴムを提案している。
 ゴムは配合した材料を練り、金型に詰めて加熱成形する。ハタダ.は金型製作のプロでもある。また、量産時の予定生産数量に合わせ、大量生産が必要な場合は海外の協力工場を手配する。いまや日本と製造コストは大きく変わらないが、日本なら金型が3つ必要な生産数量を海外なら金型1つの20時間稼働で賄える、といったノウハウを顧客に提案する。そして量産した部品はハタダ.が輸入し、全品検査を経て良品だけを顧客に納入する。ハタダ.は顧客から「試作開発→金型製作→海外生産手配→輸入→全数検査」の流れを全て任された「デレゲーション町工場」だ。

配合、形状、複合部品などベストなゴムを提案する

配合、形状、複合部品などベストなゴムを提案する

調達改革で町工場に情報公開

 日本の大手製造業は、2000年ごろから調達改革を行なった企業が多い。経営再建に取り組んだ日産自動車が「調達先を絞る代わりに大量発注する」と打ち出し電機業界が追随するなど、町工場は大きな混乱を経験した。仕事を失った町工場も多い。しかし一方で、大手企業が新製品の技術情報や生産予定数量といった情報を公開し、秘密保持契約を結んだ町工場が「イコールパートナー」となっていく流れもここから始まっている。
 ハタダでは経験と知識が豊富な技術者が勉強を重ねて大手企業の技術者と共同開発する力を蓄えるなど、対応力を高めてきた。「こちらからやらせてくださいと言ったのではなく、お客様から『これをやってくれないか』と言われて対応する繰り返しで今のビジネスモデルができた」(畑田社長)という。
 ハタダ.のビジネスはノウハウや手配サービス(ソフト)にも大きな価値がある。配合のノウハウなど「ここからは有償」と宣言する場面もあるが、基本的には部品(ハード)の売り上げで回収する。その方が顧客企業は予算を組みやすい。ハタダ.と顧客企業の信頼関係は強く、ハタダ.はノウハウを吸い取られて競合に代替される危険を感じていないようだ。デレゲーション型の売上高は、ハタダ.全体の7割を占めている。

ノウハウに価値があるが、基本は部品代で売上高を構成

ノウハウに価値があるが、基本は部品代で売上高を構成

一人親方でもデレゲーション型

 デレゲーション町工場には、さまざまなパターンがある。多品種少量の試作部品を手がける首都圏の町工場が、引き続き量産段階の仕事も引き受けるため地方や海外に分工場を持つケースは一般的になってきた。町工場総研2023春号のレポートで紹介した岩井製作所は、86歳の岩井仁さんが一人で旋盤を回す。岩井氏は旋盤加工だけでなく熱処理やめっき工程をまとめて手配、特殊な金属材料を顧客に代わって製鉄会社に発注し数千万円払って自らのリスクで2年分の在庫を保有する。一人親方でありながらデレゲーション型だ。デレゲーション町工場は今後さらに増加していくだろう。大手製造業と町工場の関係は新しい時代を迎えつつある。

株式会社 ハタダ.
所在地:東京都大田区南六郷2-38-18
代表者:代表取締役社長 畑田 芳則
設 立:1955年
社員数:45名
株式会社 ハタダ.ホームページは、こちらから。