発表・掲載日:2024/07/22

町工場と役所と大手、地域挙げEV時代に挑む

ーー新潟県柏崎市が1件1500万円の大型補助金

 新潟県柏崎市は、電気自動車(EV)など次世代自動車や環境エネルギー産業への事業展開を目指す市内企業向けに、1件あたり最大1500万円の補助金制度を運用している。基礎自治体(市区町村)でありながら大型の補助金制度を打ち出したのは、自動車部品を中心に製造業が集積する「ものづくりのまち」の強みを維持するため。補助対象は中小企業に限らず、発注側である地域の上場企業まで巻き込み、官民挙げてEV時代の勝ち残りに挑んでいる。

柏崎市役所は次世代自動車事業を目指す市内企業向けに1件あたり最大1500万円の補助金を打ち出した

柏崎市役所は次世代自動車事業を目指す市内企業向けに1件あたり最大1500万円の補助金を打ち出した


歴史あるものづくり集積地も事業所数が減少

 明治時代に日本で最初の油田が開発された柏崎には、石油プラントに必要な機械・金属加工技術が集まった。さらにピストンリングのリケンを中心に自動車部品産業が発展し、地域内に切削、プレス、めっき、金型などの町工場が集積する。しかし、1983年に411まで増えた市内の製造業事業所数は、そこから日本全体の傾向と同じくマイナスに転じ、2020年には半分以下の189まで減少してしまった。
 さらに自動車業界のEVシフトは、ガソリンエンジンに比べて部品点数が減る。市では2019年度、市内の事業者を対象にEVシフトに関する動向調査を実施、多くの中小企業が「どうしていいかわからない」と答えたことに市長が危機感を持ち、2022年度から3年間を集中取り組み期間として大型補助金制度を運用することになった。

1社依存の町工場には新分野展開経費の4分の3を補助

 この制度「自動車・環境エネルギー産業等新分野展開支援補助金」は、設備投資や専門家の助言などの経費を補助する。自動車産業の親会社1社への依存度(全社売上高に占める受注比率)が30%未満なら経費の2分の1を補助、50%以上依存している町工場なら補助率が4分の3と手厚くなる。
 まず市が指定する研修会に参加して業界動向などへの意識を高め、地域の信用金庫などの認定支援機関と共に申請書を作るといった、市内の町工場に意識改革と行動を促す工夫を凝らした。この補助金は総予算3億円のうち2億円強を基金として積み立てることで、事業者は4月から3月末までの「年度」でしばられず採択から12カ月間じっくり事業を進められる。初年度は5件程度の採択予定に対し、2回の公募で4件を採択した。
 初年度採択企業であるヤマテック(柏崎市田塚)は、1951年創業の金属切削加工業で社員数は27人、現在は大径・長尺の大物旋盤加工を得意とする。印刷機械や重電・発電の顧客が多かったのに対し、補助金を利用して「医療用装置部品製造の自社ブランド化」に取り組み、棒材から小物部品を連続加工するNC自動盤を導入した。
 同じくテック長沢(柏崎市藤井)は「大型商用車向けeアクスル部品の加工技術開発」で補助金を利用した。1963年設立の切削加工業で、周辺の町工場を2017年と2020年にM&Aで取得して3工場・社員180人に急拡大。自動車関連を中心に産業機器など毎月50社から80社の仕事をこなしている。EVの心臓部であるeアクスルの仕事に備え、深い切削加工が可能な横型マシニングセンタを導入した。

ヤマテックは補助金を活用し医療用の小物部品の生産を開始

ヤマテックは補助金を活用し医療用の小物部品の生産を開始

先行して自立化進めた町工場がさらに新分野へ

 ただし、両社は市が補助金制度をスタートするはるか前から動き出している。両社ともかつては仕事のほぼ100%がリケン向けだった。しかし、ヤマテックでは2007年に就任した3代目の山田勝久社長が顧客の拡大に着手、テック長沢でも先代の長澤信博氏(現会長)時代に新規顧客の開拓に着手し、2011年に就任した長澤智信社長が改革を進めてきた。もともと小物部品をリケンに納めていたヤマテックは、競合が少ない大物加工にシフトして新規顧客を開拓。テック長沢はM&Aで大物加工など対応分野と顧客を拡大してきた。「いまリケンさんの仕事は全体の数%で、群馬、栃木、埼玉など市外からの受注がほとんど」(ヤマテックの山田社長)、「社員数は8倍、売上高は10倍の20億円に拡大した」(テック長沢の長澤博専務)という。
 まず町工場自身が極めて柔軟に環境変化に対応して経営の自立化を進めてきた。その上で、ヤマテックが再び小物部品に戻って医療機器分野を開拓したように、市の補助金制度を活用して新たな産業分野に挑む形だ。

テック長沢は大型商用車EVの心臓部を加工できる大型設備を導入

テック長沢は大型商用車EVの心臓部を加工できる大型設備を導入

大手も変化を模索、将来の姿を地域全体で考える

 初年度の補助金採択案件には、上場企業であるリケン自身の「水素エンジン評価拡充事業」も採択されている。翌2023年度はリケンのグループ会社である日本メッキ工業と樹脂部品成形のリケンEPが採択された。大手企業自身も、EV化の荒波のなかで自らの変化に取り組んでいる。
 また、柏崎市は日本で最初の石油のまちであり、柏崎刈羽原子力発電所が立地する「エネルギーのまち」でもある。市は現在、「脱炭素のまち」を見据えて、水素をはじめとした次世代エネルギー分野に取り組む事業者との連携や再生可能エネルギー電力の導入支援を行っており、これが機械・金属加工業の「将来の仕事」を創造する可能性がある。
 補助金制度を中心に大手企業と中小企業、さらに市役所の複数の部局が交流し、産業構造の変化について意見を交換する。「意思決定の後押しになれば」(柏崎市ものづくり振興課)という「場」を作っていることが補助金制度の最大の功績と言えるかもしれない。
 厳しい経営環境の変化を嘆くだけでなく、行政と民間、大手と町工場が全員で変化に挑む。それがものづくり集積地・柏崎の強さだ。


株式会社ヤマテック
所在地:新潟県柏崎市田塚3-2-12
代表者:代表取締役 山田勝久氏
設 立:1975年(創業は1951年)
社員数:27人
株式会社ヤマテックのホームページは、こちらから。

株式会社テック長沢
所在地:新潟県柏崎市藤井1409-1
代表者:代表取締役 長澤智信氏
設 立:1963年
社員数:180人
株式会社テック長沢のホームページは、こちらから。