発表・掲載日:2024/3/14

満額回答に浮かれるな!

ーー価値重視のものづくりでステルス不況打破を

 年度末なのに仕事が薄いー。例年なら納期に追い立てられる町工場が、複雑な気持ちで2024春闘を眺めている。発注側大手企業の好業績、株価の上昇、満額回答ラッシュと好景気の要素が並んでいながら、需要が盛り上がらない。理由が見つからない「ステルス不況」の正体は。

春闘は満額回答ラッシュと伝える新聞

春闘は満額回答ラッシュだが・・・

都内も地方も年度末なのに低水準

 2024年3月14日、新聞各紙が春闘の満額回答ラッシュを伝えるなか、町工場の社長や営業担当者の顔は浮かない。

 「例年の3月に比べて仕事の量は明らかに低水準」(切削加工・同30人)
 「仕事は減っている。コロナ禍で落ち込んだまま戻らない感じ」(溶接・一人親方)
 「全体的にどよんとしている」(金型・従業員100人)
 「件数はそこそこあるが単価が安い」(切削・同20人)

 例年の年度末は3月末納入を指定する量産仕事が重なり、研究・開発部門向けでも年度計画が追い込み作業となってあわただしい。「おかしいなと周りに聞いてみたが、都内も地方もみんな同じ」(切削加工・同30人)低調な状況だという。堅調な町工場も半導体向けなどで存在するが少数派。「件数があったとしても年度予算のわずかな残額を消化しているだけ」(同)との見立てだ。
 仕事が少ない理由について町工場は、「大手企業の好業績は円安効果が大きく、ヒット商品があるわけではない」「売れる製品を生み出す力が落ちている」と頼みの綱である大手企業に対し手厳しい。

賃上げだけでなく、価値を認めるものづくりを

 2024春闘では大手企業による満額回答が相次ぎ、次は中小企業に賃上げが波及するかが焦点とされた。町工場総研の「STORY014 春闘緊急レポート」の通り、町工場側はすでに賃上げに取り組んでおり、今後も賃上げに積極的。ただし、大手企業側がコストを最優先した相見積もりによる発注を続ける限り、構造的に賃上げ分の転嫁は不可能だ。
 そんな硬直状態のなかで現れた「ステルス不況」。この言葉は1991年にバブル経済が崩壊した数年後にシンクタンクが最初に使ったものらしい。失われた30年の間、ずっと使える言葉になってしまったのかもしれない。
 今度こそ、このステルス不況を脱するためには、賃上げだけでなく、大手企業が魅力的な製品づくりに資金を投じ、技術力のある町工場がその活動に参加・協力する必要がある。「町工場の側もコストだけの相見積もりに慣れてしまい、お客様のところに出かけて提案する手間をかけなくなった。反省している」(切削加工・同30人)。経済の好循環を取り戻すためには、日本のものづくりがコスト重視のデフレ戦略と決別し、大手と町工場が価値を認め合う姿勢が必要だ。



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