発表・掲載日:2025/09/30
後継者のいる町工場同士が「攻めのM&A」
分野トップに大型化し技術力と資金力、人材力を確保
町工場の間で「攻めのM&A」が目立ってきた。金型業界では、「ギガキャスト」の開発で注目を集めた米谷製作所(新潟県柏崎市)が、ダイカスト部品製造の田中精密工業(富山市)に全株を譲渡。試験片業界では、国内トップクラスの神戸工業試験場(兵庫県神戸市)と関東で技術力に定評のある昭和製作所(東京都大田区)が業務提携し陣営を築いた。町工場のM&A・アライアンスは、跡継ぎ問題対応の事業承継型から、現役の経営者同士が強者連合を作る事業拡大型へと移り始めている。
神戸工業試験場の鶴井社長と昭和製作所の舟久保社長は2025年6月4日、業務提携の覚書に調印
「ギガキャスト」で注目の米谷製作所が田中精密工業に全株譲渡
米谷製作所は2023年4月、新潟の金型仲間と共に「メガキャスト」の開発・出荷計画を発表した。メガキャストは米テスラが提唱・採用した技術で、電気自動車の車台をアルミダイカストで一発成形する。トヨタ自動車が同年6月に「ギガキャスト」の採用を発表し、日本でも自動車生産の次世代技術として関心が高まった。米谷製作所は一気に「注目企業」となり、米谷強社長はさまざまな企業から問い合わせを受ける存在になる。
そんな米谷製作所が2024年12月25日、田中精密工業に全株譲渡すると突然発表した。単体で社員数436人の上場企業である田中精密工業も同日付で資料を開示し、そこには「自動車の電動化とともに大型化していくアルミ部品の受注獲得と、製造・開発における技術力の強化という当社の課題に対応する」と書かれていた。従業員95人の米谷製作所もこれまでのガソリンエンジン用の金型事業から、さらに巨大な設備を必要とするギガキャスト事業へ進むには「ある程度の企業規模と資金力が必要」(米谷強氏)だった。2025年2月6日から新体制となった米谷製作所では、田中精密工業で製造現場を統括する執行役員だった伊井雅博氏が社長に就任、米谷氏が取締役相談役としてサポートする。
大きな金型を作る米谷製作所のノウハウを、田中精密工業は電気自動車時代のSE提案に生かす
金型から成形、製造ライン設計までSE提案の能力を強化
田中精密工業は1948年創業で、ホンダ向けを中心にマツダ、ヤマハ発動機、川崎重工業などに四輪車と二輪車のエンジン部品を供給している。ほとんどの部品はアルミダイカスト製で、ロッカーアームなど比較的小さな部品に強い。これから伸びる電気自動車向けの部品は、車台を一発成形するギガキャストほど大きくなくとも、インバーターケースなどエンジン小物部品よりはかなり大きい。完成車メーカーに対して、部品設計時に製造工程や品質管理まで考えたSE提案(サイマルテニアス・エンジニアリング)を行うためには「これまでより大きな金型設計のノウハウまで自社で持っている必要があった」(伊井社長)のがM&A実行の理由だという。
田中精密工業の田中英一郎社長は49歳と若く、自社を単なる部品製造会社でなく、部品製造のソリューション全体を顧客に提案する業態を目指している。富山市の本社・婦中工場には、顧客や部品ごとに四角い区画が定められ、その中で工作機械やロボットアームが完結した効率的な製造ラインを構成している。子会社のタナカエンジニアリングは、そんな生産設備の設計・製作のノウハウを外販する。部品を納入するだけでなく、「部品をどう作るか」という概念全体を担当する意味で、電子部品業界における製造受託サービス(EMS)の「機械部品版」に近いかもしれない。製造に関する提案力をさらに高めるため「互いにメリットがあれば、M&Aは今後も選択肢の一つ」(田中社長)と話している。
試験片の加工は、全国の小さな専業町工場が手掛けてきた。
試験片のトップ・神戸工業試験場と独立系・昭和製作所が業務提携
試験片加工の「業界再編」につながるか注目を集めているのは、神戸工業試験場と昭和製作所の業務提携だ。資本関係を伴わない緩やかなアライアンスだが、全国に数人から数十人の小さな専業町工場が多数存在する業界構造から、いくつかのグループにまとまっていくきっかけになる可能性を秘めている。
金属の引っ張り強度や樹脂の曲げ強さ、コンクリートの硬さなど、材料の特性を調べる方法はJIS(日本工業規格)で試験法や試験片の形状が細かく決まっている。大手企業の開発部門や公的研究機関は、新品の材料や、故障した機械・装置そのものから試験片を切り出す作業を専業の町工場に委託している。試験片は微妙な形状の違いでも試験結果が変わるため、研究者は発注先を変えようとしない。また、開発期間が短く急ぎの試験も増えるなか、毎日のように訪ねてくる長い付き合いの専業町工場はありがたい存在。こうして試験片業界では、多数の小さな町工場が長く安定した取引を獲得してきた。
そのなかで神戸工業試験場は、社員数460人と圧倒的に大きい。1950年に設立し、兵庫県、大阪府のほか茨城県にも拠点を構える。試験片を作るだけでなく、1967年には試験そのものを代行する材料試験業務を開始した。大手企業の間では、試験片の加工だけでなく評価試験そのものをアウトソーシングして研究開発を効率化する動きが進む。同社は日本を代表する大手製造業各社からの受注を拡大してきた。
神戸工業試験場は加工キャパを拡大し、昭和製作所は関西の顧客を一気に獲得する
互いに顧客を拡大するウインーウインの提携
今回のアライアンスは、神戸工業試験場の側から動き出している。受注拡大で自らの試験片加工のキャパシティが不足していたが、試験結果が変わってしまうため外注は使えない。ある日、自社では納期対応できず受注に至らなかった某大手自動車メーカーが、試験片を持ち込み、評価試験だけでも頼みたいと要請してきた。通常、他社で加工された試験片は全数受入検査を行うが、その大半が寸法外れなどの問題を抱えている。
しかし、今回持ち込まれた試験片は、自社では対応できなかった納期にきちんと間に合い、しかも加工精度も極めて高かった。その点に大いに驚き、どこの会社のものかと自動車メーカーに紹介を依頼した。それが、昭和製作所だった。
昭和製作所は東京都大田区を代表する町工場の一社で、1952年に設立し社員数は37人。原子力や自動車の業界に顧客を持ち、高精度な試験片加工に定評がある。また、超音波探傷用の非破壊試験片の加工で存在感を持つ。3代目の舟久保利和社長は、後継者のいない切削加工の町工場を買収し試作開発部門を強化した経験を持ち、試験片事業でのアライアンスにも興味を持っていたところに神戸工業試験場から声がかかった。
神戸工業試験場は、昭和製作所と組むことで試験片加工の対応能力を拡大できる。また、昭和製作所の超音波探傷試験のノウハウは評価試験そのもののメニュー拡大に生かせる。一方で昭和製作所は長く懸案だった関西での顧客開拓が一気に進むとともに、これまで断っていた「評価試験までやってくれないか」との大手企業の要請に応えることができる。逆に、神戸工業試験場は昭和製作所の顧客に評価試験を売り込める。まさにウインーウインのアライアンスは2025年6月4日に昭和製作所で業務提携の調印式を行なった。
日本の人口減少などを背景に「日本国内の材料試験市場は縮小傾向」(昭和製作所・舟久保社長)で、試験片加工の小規模な町工場では廃業も目立つ。一方で「評価試験の需要は拡大しており、ある程度の規模が必要になっている。今後も信頼と技術力で緩やかにつながる『同盟』のようなグループを作っていきたい」(神戸工業試験場・鶴井昌徹社長)と話している。機動力を生かした小さな町工場の必要性は変わらないが、試験片加工と評価試験を両方こなす大手を中心に、試験片業界でいくつかのグループができていくのかもしれない。
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STORY003「メガキャスト」
STORY020「特殊鋼の小さな町から世界の航空機産業へ」
田中精密工業株式会社
所在地:富山県富山市婦中町島田328番地
代表者:代表取締役 社長執行役員 田中英一郎氏
設 立:1957年 10月1日(創業は1948年 3月1日)
社員数:連結 1,444名 単独 436名 (2025年3月31日現在)
田中精密工業株式会社のホームページは、こちらから。
株式会社米谷製作所
所在地:新潟県柏崎市田塚3-3-90
代表者:代表取締役社長 伊井雅博氏
設 立:1934年
社員数:95名
株式会社米谷製作所のホームページは、こちらから。
株式会社神戸工業試験場
所在地:兵庫県加古郡播磨町新島47-13
代表者:代表取締役社長 鶴井昌徹氏
設 立:1950年3月
社員数:460名(2025年4月現在)
株式会社神戸工業試験場のホームページは、こちらから。
株式会社昭和製作所
所在地:東京都大田区大森西2-17-8
代表者:代表取締役社長 舟久保利和氏
設 立:1952年8月15日
社員数:37名
株式会社昭和製作所のホームページは、こちらから。
